20年ほど前に徳島で就農した4人の農家。ライバル関係だった4社が共同で野菜の販売会社・株式会社菜々屋を設立したのは2012年のことでした。

農業における担い手不足解消のため、それぞれに福祉事業所を立ちあげ、農福連携に取り組み、各JA拠点で援農を行うなど徳島県全域の農業課題に立ち向かってきた菜々屋が、増え続ける荒廃農地と廃園や離農が続く果樹農業を再興するために新たな挑戦を始めました。

菜々屋で共に共同代表を務める松原さんと矢野さんにお話を伺いました。

限界突破のためライバルから仲間へ!

元々、同時期に就農し、別々の農業法人を立ち上げていた松原さんと矢野さん。商談会などのイベントに行くと、よくブースが隣同士になり、初めは負けたくないとお互いを意識していたと言います。「農業は、モノを作れば営業しなくても誰かが買ってくれる「錬金術」みたいな産業だ」と言う松原さんですが、バイヤーの「あれもこれも作ってほしい」という要望に応え続けていたある時、1社で対応するのに限界を感じ、とある農家に「一緒にやらないか」と声をかけたそうです。お互いの得意分野を活かして協力してやっていこうと。それを聞きつけた矢野さんが「自分も一緒にやりたい!」と松原さんの元に駆け込みました。ライバル同士が、仲間になった瞬間です。

仲間ができた途端、できることが格段に増えたというお二人。地域が抱える様々な課題に取り組んできました。例えば菜々屋では県と連携し新規就農者の研修を受け入れていますが、それぞれが事業をどのように育てたいか目標を明確にして、問題点を洗い出し、それに向かってどの様にステップアップをしていくのか、方向性まできめ細かくフォローする等、若手農家の育成に積極的です。菜々屋を構成する4つの農業法人が徳島県内の東西南北に点在し、幅広いエリアで行政等関係機関と連携できることも菜々屋の強みです。

4農家が、徳島県を高域でカバーして課題解決に取り組む

気がつけば360度荒廃農地が広がる徳島で、全方位の関係者を巻き込んでスダチ栽培にチャレンジ

徳島では県のマスコットキャラクターになるほど、昔からスダチ生産が盛んで市場でのブランド力も高いです。一方で全盛期には600haほどの栽培面積を誇った徳島のスダチ生産は、現在400haと降下の一途を辿っています。スダチは、実が青い内に全ての実を収穫しなければ樹に負担がかかり、翌年裏年が発生してしまいます。これまで菜々屋では、収穫期に福祉の力を借りて100名ほどで収穫の手伝いを行うなどしてきましたが、中山間地域ではアクセスが難しかったり、従来の傾斜地の園地では作業に危険を伴う等の課題もあります。

そこで菜々屋では、荒廃の進む水田を活用し新たにスダチの新植にチャレンジすることにしました。昔は条件の良い農地は水田に、果樹栽培は山で、という考え方が基本でしたが、稲作を続けられない農家も増え、気がつけば360度、見渡す限り荒廃農地になっているエリアもあると言います。

活用する荒廃農地については、県の担当者が地権者との調整を行い、その後県の補助金を利用して、什器のリース会社が整地を行います。農業が始められる準備までを県が整えてから、菜々屋がスダチの苗木を定植します。

福祉の力を借りて取り組むすだちの収穫作業

日本ではまだ珍しい柑橘の高密植栽培

平地でのスダチ栽培では、柑橘ではまだ珍しい高密植栽培にチャレンジしています。スダチは10aあたり60本程度の樹を植えるのが一般的ですが、菜々屋では1.5m間隔に垣根のように樹を仕立て、10aあたり100〜120本程度苗木を植えます。通常では6年目から収穫になりますが、高密植では3年目からの収穫を見込んでいます。また、大型の機械を導入することを見据えて5mの通路を確保しています。毎年、1haずつ新しい園地を整備し、1,000ずつ新植していく計画ですが、苗木の供給が追いつかず、現在フル稼働で育成を行なってもらっているそうです。

菜々屋には果樹栽培に経験のあるメンバーはいないため、県の農業支援センターに生産技術の支援を受けながら手探りで最適な栽培方法を模索しています。

全国的に例のないすだちの高密植栽培

人を仕事に合わせるのではなく、仕事を人に合わせる

「果樹栽培は技術の塊。その技術を可能な限り削ぎ落として、福祉やスポットのパート、新規就農者、誰でも仕事ができるようにマニュアルを作ることが重要」と矢野さん。

 実が青いうちに収穫するスダチは、葉っぱの色に紛れて探しにくいことに加え、枝には棘もあり、ゆすっても実が落ちないので1つずつハサミで切り取って収穫する必要があります。短期間で一気に収穫を終える必要がありますが、援農する福祉事業所の障害者の中には、外で働くことを好まない人もいます。そこで菜々屋では、収穫と剪定を同時に行う方法を考えました。垣根状に仕立てた樹から枝ごと実を収穫し、軽トラックで福祉事業所に運びます。こうすることで、福祉の現場では施設内で天候に左右されず、枝から実を切り離す作業を行うことができます。

収穫した実は、国分西日本株式会社と連携し、酒造用の果汁として出荷することになっています。「徳島産のスダチ」というブランド価値を守りながら、栽培の工夫をマニュアル化し、出荷先を確保することで新規就農者でも安心して営農ができるようになると考えています。

アボカドを徳島県の新たな名産品に!

徳島県ではスダチの他に梨の生産も昔から盛んに行われていました。しかしながら温暖化の影響で年々生産が難しくなり高齢化も相まって離農が続いています。荒廃した梨園は棚を撤去する費用にも数百万円の費用がかかります。そこで、菜々屋が目をつけたのはアボカドです。アボカドは根が浅く台風の影響を受けやすい品目ですが、そこに放置された梨の棚が活用できるのではと考えました。

 日本ではまだ生産者が少ないアボカドは、産地によって適切な栽培方法が確立されていません。矢野さんがアボカドを始めて植えたのが10年前、ようやく栽培方法が確立されてきたところだと言います。

アボカドの収穫をする矢野さん

ハウスと露地で15人の農家が栽培に参加

アボカド栽培は、現在ハウスと露地、2通りで栽培しています。ハウス内では10aに120本、露地では10aに60本を目安に苗を植えます。ハウス内では根域制限栽培で2年目から収穫が可能になりますが、4年で限界になるため、5年目以降は露地に移植しハウスには新たな苗木を植えて継続して収穫ができるようにしています。菜々屋に青果を提供する農家は現在50件、そのうち15件の農家がアボカド栽培にチャレンジし、グループ全体で現在1,000本ほどのアボカド栽培を行なっています。販売では東京・大阪の卸事業者や全農徳島と連携し、産地形成と徳島県産アボカドのブランド化を進めます。

まだまだ続く、菜々屋のチャレンジ!

農繁期と農閑期による仕事のムラを埋めるため、荒廃農地での榊の栽培も始めました。市場に出回る榊のほとんどが海外産であるため、国産の榊は需要が高く、1年中いつでも収穫でき、収穫すればするほど木が大きくなります。連携する福祉も含め、1年間の仕事をフラット化する一助となっています。

 「1人で100億円稼ぐより、1億稼ぐ仲間を100人集めたい」と言う松原さんと矢野さん。行政、JA、農家、福祉、企業等、あらゆる関係者と連携を深めることで、持続可能な農業経営と地域の維持・発展を目指す菜々屋のチャレンジはこれからもまだまだ続いていきます。

荒廃農地での榊栽培

基本情報

会社名:株式会社菜々屋

所在地:徳島県徳島市国府町中760-3

栽培品目(果樹関連):スダチ、アボカド

圃場面積/生産量:スダチ 1ha /収穫はこれから、アボカド 15a/少量

左下が松原氏、左上が矢野氏

<松原 克浩 氏 プロフィール>

建築関係の仕事を経て農業の世界へ。現場で培った工程管理や段取り力を強みに、農業を「一人でやらない仕事」へと広げてきた実践派。仲間と仕組みをつくり「地域全体で成り立つ農業」に挑み続けている。

<矢野 正英 氏 プロフィール>

水耕栽培を起点に農業へ参入。生産の現場に立ちながら農業の可能性を広げてきた実践派。培った栽培方法は惜しみなく共有し、農業の楽しさを語りながら仲間を増やし、みんなで農業を拡大していくことを大切にしている。