松山市の海を望む斜面で、約20品種のアボカドを育てる「アボカドラウンジ有田」。代表の有田文宣さんは、露地栽培で積み重ねた経験をもとに、施設栽培やポット栽培、品種改良へと挑戦の幅を広げています。栽培の難しさに向き合いながら、国産アボカドをより身近な果物へ。その歩みと、これから描く農園の姿を聞きました。
庭の一本から始まった、アボカド栽培
有田さんがアボカドに関心を持ったきっかけは、まだ会社員だった頃にさかのぼります。奥様が庭に植えたアボカドの種が、冬の寒さに耐えながら大きく育っていく。その姿を間近で見たことで、次第に栽培への興味が深まっていきました。
当時、有田さんは農業資材会社の営業担当として、全国の生産者を訪ね、生産工程の課題解決を支援していました。農業の現場に触れるなかで、自らも作物を育てたいという思いが芽生えます。松山市による苗木の育成・配布や栽培技術の支援も受け、2014年からアボカド栽培を本格的にスタートしました。借りたのは、20アールのみかんの耕作放棄地です。山を開墾し、苗を植え、育てるところから始めました。平成30年には自宅前に無人直売所を開設。令和元年10月の退職後は、栽培と販売に本腰を入れています。現在の農地は「圃場」「テラス」「試験ハウス」を合わせて25アール。園で育てたアボカドは「和ボカド」として商標登録し、関東・関西へギフト商品としても出荷しています。
露地栽培の難しさが、次の発想を生む
アボカドは、環境の変化に敏感な果実です。栽培を始めた土地では、当初、苗は勢いよく生長しました。しかし、園地の約3分の2を占める粘土質の場所では、やがて半数ほどが枯れてしまいます。一方、真砂土質の約3分の1では木が生き残りました。有田さんはその場所を中心に、およそ10年にわたり栽培を続けてきました。
近年は夏の高温が厳しさを増しています。有機JAS認証を取得している園では草刈りが欠かせず、みかん園跡地の傾斜で行う作業は大きな負担です。暑さや強い紫外線、春と秋に発生するマダニへの対策も必要になります。特に高齢の生産者にとって、急斜面での作業は安全面でも軽視できません。
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鳥害にも向き合ってきました。栽培品種のうち「ハス」はカラスの被害を受けるため、松山市から資材費の半額補助を受け、有田さん自身が防鳥ネットを設置しました。こうした一つひとつの経験が、より安全で安定した栽培方法を探る土台になっています。
携帯操作できる施設栽培へ
有田さんが次の一手として検討しているのが、スマート農業を取り入れ、携帯端末から操作できる施設栽培への転換です。目指しているのは、ポット栽培による安定生産と作業負担の軽減。潅水や液肥の管理をしやすくし、これまで全ての果実に行ってきた袋掛けを省くことで、生産コストを10分の1に抑えることを目標にしています。人件費も含め、将来的には現在の3分の1ほどの価格で提供できる姿を描いています。
露地でも、ブドウ栽培に使われてきた不織布製の「ルートラップポット」を活用する試みを4年以上続けています。潅水や液肥による管理がしやすく、ポットは20年ほど使用できるとされるため、アボカド栽培への活用を進めています。さらに、アボカドの上部にブドウ棚を設けてブドウを栽培。日差しを遮り、葉から水分が蒸散する際の気化熱を利用して、温度が上がりすぎるのを防ぐ工夫です。異なる果樹の特性を組み合わせることで、アボカドが育ちやすい環境をつくろうとしています。
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土地に合う品種を、自らの手で
アボカドは明治時代初期に観賞用として日本へ導入され、その後、昭和期以降に食用果樹としての栽培が広がったとされています。愛媛県では昭和40年代以降、温暖な気候を生かし、かんきつ産地の転作や園地の多角化につながる作目として試験栽培が始まりました。県内には、地元の島の名を冠した「鹿島」という品種もあります。樹勢が強く、県農業試験場には一本に1000個の実をつける木がある一方、種が大きく可食部が少ないという特徴があります。
松山市では、さまざまな品種を交配し、それぞれの土地に合う育てやすい品種の改良が進められています。有田さんも現在、約20品種を栽培。そのなかで「カビラグリーン」と「ベーコン」を交配し、奥様の名から「さえみ」と名付けた品種を生み出しました。さらに「鹿島」と海外品種を掛け合わせた品種の改良にも取り組んでいます。
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青果の先に広がる、農園の楽しみ
収穫したアボカドは、ふるさと納税やネット販売、一部の仲卸を通じて届けています。園地には瀬戸内海を見渡せるテラスを設け、アボカド狩りも楽しめる場へと準備を進めてきました。果実を販売するだけでなく、アボカドをきっかけに多くの人と交流したい。それが有田さんの思いです。
青果以外の商品づくりにも力を入れています。「アボカドミルキージャム」は、松山在住のジャムの専門家に依頼して開発し、昨年から少量の販売を開始しました。今後は、有機JASで育てたアボカドの葉を使い、ポリフェノールを多く含むリーフパウダーの商品化も予定しています。
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もう一つの加工品が「百花蜜」です。近隣の養蜂家から、アボカドの花が咲く時期に採蜜した蜂蜜を仕入れています。同じ時期に咲く桜、藤、みかんの蜜も含まれることから、この名を付けました。蜂蜜が減るにつれ、瓶の内側に描かれた、アボカドの花に止まるミツバチが見えてくるパッケージにも、農園らしい遊び心が表れています。
国産アボカドを、もっと身近に
日本熱帯果樹協会や、熱帯果樹を紹介する動画配信者をはじめ、静岡県や高知県からも見学者が訪れるアボカドラウンジ有田。有田さんは、見学者に対してまず「アボカド栽培は難しく、これまでの果樹から簡単に転作できるものではない」と伝えているといいます。
その難しさを知るからこそ、栽培環境を整え、土地に合う品種を探り、手に取りやすい価格を目指す。有田さんは、栄養価が高く、幅広い世代が食べられる国産アボカドが、国内の食料事情を支える存在になると考えています。瀬戸内海を望む小さな園地で続く試行錯誤は、国産アボカドの可能性を一歩ずつ広げています。
基本情報
農園名: Avocado Lounge Arita(アボカドラウンジ有田)
所在地: 〒799-2468 愛媛県松山市小川甲387‐1
電 話: 090-9553-6980
栽培面積:30アール及び試験ハウス
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<有田 文宣氏 プロフィール>
アボカドラウンジ有田 代表。
農業資材会社で全国の生産者を支援した経験を経て、2014年から松山市でアボカド栽培を開始。令和元年10月の退職後、栽培・販売事業を本格化した。有機JAS認証のもと約20品種を育て、品種改良、施設・ポット栽培、加工品開発にも取り組む。

