株式会社鈴生の鈴木代表は、幼少期から家業であった農作業の厳しさ、農業で生計を立てることの難しさを肌で感じていたため、農業とは無縁の将来を考えていたと言います。そんな鈴木さんが、耕作面積161ha、売上14億円という日本を代表する農業法人を築き上げるに至った経緯や、自社のみならず、日本の農業界全体の将来を見据えたビジョンについて、お話を伺いました。

就農への決意と恩師から得た農業と人材育成の極意

元々、鈴木家は蜜柑とお茶を育てる農家でした。「もっと安定した職業を」というお祖父様の想いから、ご両親は会社勤めをされていたそうですが、お祖父様が病気で倒れたことをきっかけに、農地を守りたい想いでお父様が脱サラし農業を継ぐことになりました。鈴木さんご本人も、大学の長期休暇を使って野菜作りを手伝いました。失敗も多かったものの、種をまき、芽が出て、最後は契約先のレストランで食べた人に「美味しい」と言ってもらえる喜びを感じ、生命を育てる仕事に就きたいとの決意が生まれました。大学卒業後、2年間の農業研修を受け、25歳で父親の後を継ぎ、夢と希望をもって自社農園に戻り野菜作りに励みました。ところが当初の5年間は収益も取れず、満足のいく野菜が収穫できなかったそうです。

うまくいかなかった理由を、鈴木さんは「儲かりたいとか、人より大きい野菜を作りたい」という私欲があったからだと振り返ります。農業を辞めてサラリーマンにならなくては生きていけない、と思った時、恩師から「作物は、あなたが育てているんじゃない。あなたは、作物が育つ手助けをすればいい」という言葉をかけられました。その時、「育てる」から「育つ手助け」へ、という現在まで続く生産における会社の方針、進むべき道が見えたと言います。作物だけでなく、人材に対しても同じように伴走を続けた結果、人と作物が育ち、事業が拡大していきました。

社員の平均年齢は32.6歳。多くの若者が活躍する

事業ごとの分社化、グループ全体で育苗〜出荷・配送まで一元管理

2014年にモスバーガーと安定的な契約栽培を行うことを目的に「株式会社モスファームすずなり」を、2018年には中日本高速株式会社と東名高速道路沿線の活性化を目的に「中日本ファームすずなり株式会社」を設立するなど、事業ごとに企業からの出資も受けながら分社化し、現在では鈴生グループ全体で売上14億円まで事業を拡大しています。

グループ生産4拠点で使用するレタス類・ブロッコリー・青ネギ等の苗づくりは、自社の育苗センターで行います。また、鈴生が契約してきた野菜生産をグループ会社や契約農家に振り分けるだけでなく、鈴生グループとしてJGAP団体認証を取得し、一括管理の元、品質の良い野菜を生産しています。さらには商品の流通費等の負担を軽減するため、2018年3月、グループ内に運送会社「STMエクスプレス」を設立、鈴生グループの生産する農産物を中心に地域の農家との共同配送を行うことで運送の効率化を図りつつ、県内外の農家の野菜を、全車保冷機能を有したトラックで鮮度よく届けることを可能にしています。

グループ内で太陽光型植物工場を運営するTEN Green Factoryでは60名の障がい者が農作業に従事、ノウフクJASを取得している

果樹生産面積の減少に危機感。レモン栽培への参入

鈴木さんは元々実家がみかん農家であったことから、これまでの果樹経営では新たな苗を新植する余裕はなく、今ある木から取り続け、取れなくなったら離農する農家が多くなるだろうと身をもって感じています。それでも、近年の果樹生産面積の急激な減少は驚くべきスピードで、今後、国産の果実は食べれなくなるのではないかと危機感を募らせます。

そのような背景から、鈴生では2018年ごろから果樹の可能性を模索し、2025年、地域や行政とも連携し広島県江田島市でのレモン栽培に着手しました。数ある果樹の中からレモンを選んだのは、①国内需要の高まりと単価の上昇、②果汁も含めて輸入が大半を占めていること、③近年の温暖化で栽培地の北限も上がることが予想され、気候の適応性がある品目であること、 ④剪定技術一つで出来栄えに差の出る果樹が多い中、レモンではそれほど大きな違いが出ないこと等が理由に挙げられます。

一方で大規模果樹園を農業法人だけで新たに始めるには多額の初期投資が必要になります。その上、苗木が成木となり収益化できるようになるまでに5〜7年の年月がかかります。併せて、持続可能な園地を事業承継していくためにも、大規模化、機械化、先端技術の活用によるスマート果樹農園を目指していきたい狙いがあります。

農業法人「LEMONITY」の設立

大規模な果樹園参入への壁を乗り越えるため、ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社と西本Wismettacホールディングス株式会社に声掛けをし、2025年9月3日、1億円の資本金で株式会社LEMONITYを設立、3社での大規模果樹経営に乗り出しました。生産はLEMONITYが担当し、収穫した加工用レモンはポッカサッポロに出荷、青果はWismettacを通じて販売されます。役員は鈴生3名、ポッカサッポロ1名、Wismettac1名で構成され、静岡県磐田市を中心に、レモンの産地拡大を進めます。

今後、静岡県内を中心に2026年には10ha、2030年には50ha、最終的に2035年には100haまで園地を拡大する計画を立てています。成木時期を見極めて選果場を建設し、生産から販売までのバリューチェーンを統合し、「生産」「加工・物流」「販売」までを一気通貫で行うことで、品質管理・コスト削減・ブランディングを行い、果樹生産に革命を起こすことを使命としてます。また世界の大規模果樹園農家と連携し、輸入機械の導入、灌水設備の設置により農地の集積を進めていく計画です。

LEMONITYは“LEMON(レモン)”と“TRINITY(三位一体)”を組合わせた造語であり、共同出資者の3社が一丸となりレモンの生産振興に取組む想いが込められている

日本の農業の非効率性を乗り越えるには。農地REIT法人の構想

幾度かの危機を乗り越え、グループ全体で従業員を156名抱えるほどに事業を拡大した鈴木さん。会社が大きくなっても「現場の苦労を知っていなくてはならない。企業と農園の両方を運営し、作ることのリスクを負いたい」と語ります。

そんな鈴木さんが考える日本の農業の最大の課題は、農地が集約できないことによる非効率性です。「庭先に100haの農地があれば、ある程度儲かる農業ができると思う」としながらも、現在もまとまった農地を集約するのは非常に難しいと言います。

そうした課題を解決するために、鈴木さんが構想するのは日本版農地リート(REIT:不動産投資信託)法人の導入です。農地をまとめる法人と生産を担う法人の役割を分けること。農地リート法人が大規模な区画整理やインフラ整備をおこなった上で、生産技術のある法人が効率化された優良農地で生産を担う、という仕組みが必要だと考えています。

「日本の農地を農業生産で守り、国内自給率を上げる」という大義を胸に、その可能性を模索しています。

基本情報

会社名:株式会社鈴生(すずなり)

本社所在地:静岡県静岡市葵区下 1108-8 

栽培品目(果樹):レモン

レモン圃場面積:8ha(株式会社LEMONITY 含む)

<鈴木 貴博氏 プロフィール>

株式会社鈴生代表。

2008年に、当時新しい形態のレタスの契約栽培・契約出荷を基本とした株式会社鈴生を設立。露地野菜生産者の枠を超えて農業を幅広く捉えつつ、常に持続可能な農業を目指して事業の開拓と選別を進めながら多角化経営を行ってきた。現在は7つのグループ会社のうち3社を後継者に引継ぎ、相談役として伴走支援を続けている。