寒い冬、「炬燵にみかん」は、私たち日本人に共通する原風景の1つです。甘くてジューシーな日本のみかんは海外、特にアジアでも人気の果物ですが私たちがよく知っている通り、みかんは少し暖かい所においてあるだけですぐに傷んでしまいます。宮崎県で3代みかん栽培に取り組む株式会社ネイバーフッドの田中さんは、この繊細な果物を2020年ごろから台湾に輸出しています。栽培方法や温度管理等、様々な工夫をして、最盛期には毎週6tのみかん輸出を行う田中さんに、お話をお伺いしました。

Uターンで地元に戻り就農。農業修行〜法人の立ち上げへ。

2011年に地元宮崎にUターンし、お父様と共に農業に取り組み始めた田中さん。お父様の元で月4万円ほどの給料で農業修行を続ける傍ら、県の人材育成セミナーで台湾との交流事業に参加し現地での人脈を広げる等、現在の事業につながる礎が築かれました。

2019年にネイバーフッドを立ち上げ代表に就任した後、2020年には台湾へのみかん輸出をスタートさせました。元々2haほどだった農地も、現在では14haまで拡大しています。

7haの集約された農地に11,000本の高密植栽培

田中家では1947年、お祖父様が竹山を鍬で開墾し2haほどの農地でみかん栽培をスタートさせました。地域的に大きなみかんの産地ではなかったこともあり、常識に捉われない栽培にチャレンジする土壌があり、30年ほど前からみかんでは珍しい高密植栽培が行われていたと言います。

2022年、ネイバーフッドは宮崎市清武町で、昭和47年ごろに開発されたものの荒廃化が進んでいた「十九の丘(とくのおか)みかん団地」の農地を、農業公社を介して7haほど取得しました。

樹勢が強く糖度の高い「興津早生」の高密植栽培

昨年新植を行ったという圃場には、小さなみかんの苗木が株間100cm、樹列間4mの密な間隔で並んでいます。みかんは木が元気すぎると実が付きにくくなるため、木にストレスのかかりやすい高密植栽培では実がなりやすく、3年目から本格的な収穫が始められるそうです。

7haの農地に植えられたみかんは11,000本。苗木の新植の初日、田中さんは13人の助っ人を集め苗木を持って等間隔に並んでもらいブルドーザーで土をかけるというダイナミックな方法で、なんと3,700本もの苗木を植えたそうです。驚く取材チームに田中さんは「農業はちょっとめちゃくちゃなことやらないと儲からない」と楽しそうに笑います。

ブルドーザーでの新植の様子

先人の知恵をこえる農業を。過去の常識を全て疑う。

圃場での薬剤散布は通常、スピードスプレヤーという車型の噴霧器を圃場に走らせますが、操縦が難しく不安定な圃場では危険が伴います。運動能力の高い田中さんにとっては、スピードスプレヤーもブルドーザーも操縦はお手のものですが、他のスタッフには任せることができません。そこで、今年から導入を予定しているのがドローンによる薬剤散布です。

安全性に加えて、従来のスピードスプレヤーでは1度に1,000リットルの水を必要とするそうですが、ドローンでは80リットルほどで済むと言います。

ドローン使用については、周りの人に相談しても否定的な意見が多いそうですが、田中さんには「うまくいくだろう」という確信があります。

「今、70代くらいの人たちがやっていた農業は強い。とても良いものを作っている」と、お父様を始め先人の農業に敬意を抱く一方で「今までやってきたことが全部はずれだと思って挑戦しないと、農業で生き残ることはできない」と言う田中さん。

1年で成長する高さを示す田中さん

先人の知恵をものにするのには長い年月がかかります。例えば剪定についても、1本ずつ確認しながら枝を落としていく従来のやり方では、考える時間が多くなり作業時間が膨大になるため、大きなカッターのような機械で、隣の木と干渉しないようにバッサリ落としていくという方法に舵を切り、機械を導入することも検討しています。

「強いみかん」の集荷・選果・出荷システムの構築と産地リレーの形成

ネイバーフッドでは2021年に日南市に選果場を新設しました。自社のみならず地域の農家のみかんも買い取り、温度と湿度管理を徹底し、台湾への輸出と加工品の製造に使用しています。

足の早いみかんを船便で、しかも残留農薬の基準が厳しい台湾へ輸出することはハードルが高いですが、県の農業試験場や研究機関等の協力も得ながら、みかんを長持ちさせるシステムを構築しています。2021年にみかん農家として日本で初めて導入した光殺菌機は薬物等を使用せず、赤外線・紫外線を照射し、みかんと接触することなく表面を殺菌をすることができます。また、食品添加物を活用したワックス等、有効だと思えたことはすぐに導入します。

日南市の選果場。通常よりも等級の分類数を減らし効率化、1時間に1tの仕分けをする

また、2018年には農林水産省の「GFP(グローバル輸出産地企業)」に選出され、産地を取りまとめて輸出をおこなっています。県をまたがり、宮崎→九州→和歌山→静岡→九州ハウスみかんと、一番美味しい時期のみかん産地をリレー形式で繋ぎ、秋から初夏まで長い期間での輸出を目指しています。

輸出の基準を満たさないみかんについては、ストレートみかんジュースの加工用に買い取るため、パートナーとなる農家も安心して栽培に取り組むことができます。

ストレートみかんジュースは1ℓ1500円程と高値だが売上好調

輸出の相手国である台湾についても、一方通行の市場侵略であってはならないと、プライベートも含め100回以上も台湾へ訪問されているという奥様と共に、丁寧に関係構築をしながら進めてきました。

昨年は視察で訪れた韓国の済州島の徹底した輸出みかんの生産体制に刺激を受け、これからもフォーカスしていく予定です。

身近な同業者も少なく「生産のことを一人でずっと考え続けている」と言う田中さん。それでも「疲弊する農業に光を与えて、農家の幸せを作っていきたい」と語る田中さんのチャレンジはまだまだ続きます。

基本情報

会社名:株式会社ネイバーフッド

[ 宮崎事務所 ]宮崎県宮崎市吉村町北原甲1405-3-506

[ 日南事業所 ]宮崎県日南市萩之嶺3164-3

栽培品目:みかん

圃場面積・生産量:14ha・170t(苗木を含む)

<田中 伸佳氏 プロフィール>

70年以上続くみかん農家の3代目。

2011年、地元宮崎にUターンし、みかん農業を開始。

2019年 株式会社ネイバーフッド設立、代表取締役に就任。

田中さん(左)と奥様(右)