垣根のように一列に整然と並ぶりんごの木。ひょろりとしたりんごの木を高密度で植えていく栽培方法を「高密植栽培」と言います。長野県の上伊那農業協同組合は、イタリア等を中心に海外では一般的なこの栽培方法を2007年頃から導入し、生産者・JA・全農長野が一体となって地域全体のりんご栽培の効率化と生産量の拡大を図っています。当時から現在に至るまでその中心で活動されている上伊那農業協同組合 営農経済部 営農アドバイザーの沖村さんにお話を伺いました。
りんご高密植栽培とは
通常のりんご栽培(開心形)では、10aの圃場に20〜25本の木を植えて、12~15年ほどで成園になり2000~3000㎏程度の収量が得られます。一方、高密植栽培では10aに300〜500本の木を植え3年目から1t程度の収穫ができ、4〜5年目で4〜8t収穫できるようになります。多収で早期成園が可能なため従来のりんご作りと比べ新規就農者にも取組み易い栽培法です。また改植を諦めてしまう高齢農家が、農業を継続していく動機にもつながっていると言います。
垣根状の樹形で果実へ満遍なく日があたるため、製品率が従来の園地と比べ飛躍的に高くなり高収量と合わせ高い収益性を誇っています。

高密植栽培には欠かせない台木生産。全農長野を中心に長野県内で15万本程度の生産がある
日本のりんご栽培では1玉1玉のりんごを贈答用向きに手をかけて栽培することが主流ですが、実際のマーケットでは量販店や加工用の需要が大半を占めます。そのため、上伊那ではある程度の品質を担保しながら収量を確保できる高密植栽培を地域全体で選択しました。今では約40%程度の136件の生産者が取り組んでおり、高反収であることから出荷量は高密植栽培で生産されたものが65%を占めるようになっています。
一方で、湿気に弱いと同時に、根が浅いため十分な水が必要という難しさもあります。そのため、上伊那では畝のように少し盛り土をして水捌けを確保し、灌水設備も導入されています。また、大きな台風では棚ごと倒れてしまうこともあるため、コンクリートの支柱による防風対策の試験をおこなっています。またコンクリート支柱の上にネットで被覆を行い日焼け防止・防雹対策・霜よけ対策などを目的と試験を行う予定です。


更なる効率化を目指し研究会の発足と機械化の推進
JA上伊那では昨年、高密植栽培に取り組む農家全員(136名)が参画する「高密植栽培研究会」が発足しました。研究会の中で10名ほどのメンバーからなる幹事会が中心となって品種検討・技術検討や機械化などの研究を進めています。研究会のリーダーを務めるのは、この地域で代々農業を営む白鳥さん。約4haほどの農地でりんごの高密植栽培に取り組まれています。上伊那は1枚の圃場面積が比較的大きく、幹事会を構成する40代前半の農家は、皆3〜5haの規模での営農を目指されているそうです。


りんごの高密植栽培では樹高が4mほどになるため、高所作業車が欠かせません。収量が多く、圃場面積も広くなると従来の1人乗りの高所作業車では収穫したりんごを1コンテナづつ下す必要があるため、作業効率が落ちることが課題となっていました。そのため、農林水産省の事業を活用し、複数人が同時に乗り込める大型の高所作業車を導入し収穫作業の効率化の研究を進めています。昨年は高所作業車にパレット上に24コンテナを積み収穫したりんごをパレットごとトラックに積み込む試験を実施しました。結果、作業時間は30%ほど短縮することができ、重いコンテナを手で移動することも大幅に減ったことで体への負担も軽くなりました。また、作業時(収穫や管理作業)に足元が広く地上にいる感覚で作業ができるため効率的になりました。


今後や多様な作業の機械化を進めるため、トラクターで複数の作業機を使う体系の確立を検討しています。従来の果樹園の機械化はエンジン付きの専用作業機(SSや乗用モアなど)が活用されていますが、面積が大きくなるとそれら専用作業機を複数台導入する必要が生じコストが嵩んでしまいます。そこでトラクターを動力源とした体系確率により作業効率の向上とコスト低減をめざしています。海外では樹高が高く通路面積も広い高密植栽培に適した開発され活用が進んでいます。研究会メンバーの多くが先進地イタリア南チロルの視察に参加しており、南チロルなどをモデルに機械化検討を進めています。
JAとベテラン農家が新規就農者をバックアップ
長年に渡り、JAと農家が栽培方法を二人三脚で研究してきた上伊那地域。近年では、新規就農者も多く活躍していると言います。りんごの高密植栽培では、収益化までのサイクルが短いとは言え、園地が完成するまでには2〜3年かかります。そのため、JA上伊那では市町村と連携し県外からの希望者を支援し、新規就農者は1年間(条件によっては3年まで)給与を得ながら自分の園地作りに専念することができるそうです。他にも、白鳥さんのようなベテラン農家の元でインターンとして栽培技術を学んだり、自分の園地で生計を立てられるようになるまでは担い手のいない園地を借りて収入を担保することができるようマッチングしたり、広範囲にわたって支援が行われています。また、毎年7〜8月には、地域の生産者がみんなでそれぞれの園地を周り栽培の状況について意見を交わすそうで、新規就農に挑む人にとっては心強い環境が整っています。取材に同行いただいたJA上伊那 園芸課 果実係長の清水さんからは「新規就農者向けの園地はなんとか探します!」という心強い言葉もいただきました。

JA上伊那の新規就農者支援について知りたい人はこちらから。
新規就農者からベテランまで、一丸となって地域全体で効率化と大規模化で生産性向上を図る上伊那には、毎年他地域から多くの視察者が訪れるそうで、今後の日本の果樹産地を維持するモデルとなっています。
基本情報
団体名:上伊那農業協同組合
所在地:長野県伊那市孤島4291
栽培品目:りんご
高密植栽培の圃場面積(組合員全体):約75ha(全体の約40%が高密植栽培)
高密植栽培りんごの出荷数量(組合員全体):約3,100t(全体の約65%)
<沖村 俊彦氏プロフィール>
H17 全農長野 生産企画課長
H18~19 JA長野県営農センター 農業振興課長
(H20~22 米穀課長)
(H23 きのこ課長)
H24~26 全農長野生産販売部長
H27 南信事業所長
H28~30 営農センター審議役
R1~3 全農長野計算センター社長
R4~ JA上伊那・全農長野 アドバイザー


